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 いまなお国民的な人気を誇る野球漫画、『巨人の星』。その主人公・星(ほし)飛雄(ひゅう)馬(ま)が魔球「大リーグボール」を生み出したキッカケは、自らの「克服不可能な弱点」をライバルに指摘されたことだった。
 その弱点とは、「体重が軽い」こと。そのため、どうあがいても軽い球しか投げられない、というのだ。

 このエピソードが浸透したから…、かどうかは分からないが、日本球界では「体重の軽い投手のボールは軽い」という考えが一般的になっている。野球解説者も平然と口にし、重い球を投げるため体重を増やすプロの投手もいる。
 しかし、この理論は明らかに正しくない。ボールの速度と回転が同じであれば、誰が投げようと、打者が感じる手ごたえは同じである。バッティングマシンの材質をプラスチックから鉛に変えたとて、その投じるボールの「重さ」は同じなのだ。

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 そもそも、球が重いとか、軽いとかを、これほど真剣に論じるのは、実は日本だけである。
 野球の本場・アメリカでは、球が「重い」という言い方は、ほとんどされない。ごく稀に、ある投手の球が「重く感じる」と言う選手もいないことはない。だが面白いことに、アメリカでは、そのようなことを言う選手のほとんどは、打者ではなく捕手である。

 また、日本では直球が最も重いと信じられているが、アメリカでは違う。八十年代にジャイアンツの捕手だったボブ・ブレンリーなどは、シンカー(沈む球)が最も「重い」と主張している。手元で微妙に変化するため、捕球の際に指に当たってしまい、重く感じるというのだ。日本でも、打者が「重く感じる」という球は、手元で微妙に変化してバットの芯を外している球に過ぎまい。重ねて断言するが、投手の体重がボールに伝わっているわけでは、絶対にない!

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 「体重が軽い投手の球は軽い」という理論をはじめとして、日本ではいささか非科学的で説得力を欠く野球解説が横行している。
 たとえば、解説者は往々にして、「スピードはありますが、球は走っていませんね」などと言う。いちおう元高校球児である私だが、この表現の意味はサッパリ分からない。おそらく、「球が走っている」ことの意味を明確に答えられる解説者は皆無だろう。

 「彼のストレートは伸びもキレもある」といった常用表現も同じである。「ストレートの伸び」はまだ分かるが、「ストレートのキレ」は意味不明だ。「コクがあるのにキレがある」といった表現を好む日本独特の言い回しであり、アメリカにはこれに該当する表現はない。
 前述したとおり、投手の投じた直球の特性を決めるパラメータは、速度と回転だけだ。この組み合わせだけで、スピードや伸びの他に、重さ、球の走り、キレ、球威、球質、勢い…などなど意味不明で定義不可能な特性が現われるなんて、ハッキリ言ってあり得ない。

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 野球解説者の皆様には、もっと真摯に、説得力のある解説を心掛けて欲しいものだ。少なくとも、自分が明確に説明できない言葉を使って、素人を煙に巻こうとする態度は良くない。
 ついでに言うと、解説者が投手の配球の良し悪しを論じたがることも、実におかしな事だと思う。配球に、正解もセオリーもない。もし仮に「正しい配球」というものがあるなら、配球を熟知した強打者には、配球を読まれて打たれてしまう。絵に描いたような見事な矛盾ではないか。

 まずは皆さんも、「重い球」や「球の走り」の存在を疑うことから始めてはどうだろう。そうすれば、気付くかも知れない。野球中継で、こういった台詞を言う解説者が褒めた投手に限って、その次の瞬間に火だるまになることが多いことに…。

(この記事は「逓信協会雑誌」2011年4月号に掲載されたものです)
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